復活したライダーは峠を目指す!!
今から20年前、箱根の峠は小僧(若者)ライダーの聖地だった。
しかし、今、箱根の峠で小僧ライダーを見かけることは稀である。
なぜなら、今の若者はほとんどシティ系ビッグスクーターにしか乗らないからだ。
そして、20年前に小僧ライダーだった者たちは年月を経て中年ライダーとして復活した。
ある者は子育ての一段落とともに昔乗っていたバイクのエンジンに再び火を入れ、
ある者は若い時には手に入れることが出来なかった、時速300キロも出るバイクを手に入れたのだ。
嘘だと思うなら、休日の朝早く箱根の大観山SAに行ってみるといい。
サーキットかと思うほどの数のバイクとともに中年ライダーを目撃することが出来るはずだ。
そして、一ヶ月に1回くらいは、そこに私、takaの姿を見つけることも出来るに違いない。
大観山に行くまではほとんどの者が、ターンパイクを使う。
ここは登りの高速コーナーが連続したワイディングロードある。
多くの者は、死亡事故発生現場をいう、いくつかの鋼鉄の墓標に心の中でレクイエムをつぶやきながら、さらにアクセルを回すのだ。
大観山からはいくつかの峠道に分かれる。
低速コーナーを得意とする者は椿ラインへ下り、低、中速コーナーを得意とする者は芦ノ湖スカイラインへ、そして、中速コーナーを得意とする者は伊豆スカイラインへとステアリィングを向ける。
私はいつも、ここから伊豆スカイラインの亀石峠サービスエリアまでノンストップで走ることを日常としている。ここのワイディングロードはとにかく長いのが特徴だ。大観山から亀石峠までは15キロもあるだろうか・・・。
私はGSX-R1100の心地よいエンジンの咆哮を味わいながら、右へ左へと車体を切り返す。
排気量の大きいバイクはこの峠では2速と3速だけを使えばよいので楽だ。
400ccのバイクではこうはいかない。
しばらくすると、バックミラーに後方から追い上げてくるドカティのバイク集団が見えた。
いつもなら道をゆずるところだが、今日はエンジンの調子がすこぶるいい。
まるで、GSX-Rがわたしにバトルをうながしているかのようだ。
そうか、お前はイタ公のバイクとバトルがしたいのか・・・。
アクセルをひねるとGSX-Rは軽くフロントを上げながら怒涛の勢いで加速していく。
すると、後ろにいるドカティ集団も追尾式ミサイルのようにスピードを上げてきた。
ドカティ集団の先頭を走っているのはモンスターという名前のバイクである。
その名のとおり怪物じみた加速が可能なクレイジーバイクだ。
ライダーはめずらしく小僧(若者)ライダーである。
私はコーナーでリーンインの乗車姿勢をハングオンに切り替えて、さらにアクセルを吹かした。
GSX-Rは最高出力145馬力のパワーを搾り出すかのようにエグゾーストノートを峠に響かせる。
私は連続中速コーナーを右へ左へせわしなくイン・ベタで走り続けた。
通常、コーナーはアウト・イン・アウトで抜けるのがスピードを出すためのセオリーだとされている。モンスターに乗っているライダーはイン・ベタで走り続ける私を見てくみしやすい相手と思ったことだろう。
「シュルルルル、ドガーン!」
後方を見ると先頭を走っていたモンスターがコーナーで滑って反対車線の側溝に落っこちていた。
ドカティ集団の連中は心配そうに、モンスターに乗っていたライダーを側溝から引き上げていた。
私もバイクを降り、救助に向かった。幸いライダーにたいした怪我はないようだ。
「このあたりのコーナーは外側(アウト側)に砂が浮いてるんだ。だから、アウト・イン・アウト
で走るのは危険なんだよ」
「そうなんですか・・・」
モンスターに乗っていたライダーは苦痛と失意に顔を歪めながら、つぶやいた。
彼がこれに懲りてバイクから降りてしまったのか、今でもバイクに乗っているのかはわからない。
年をとってからでもいいから、またこの峠に戻ってきてくれればいいと思っているだけである。
峠に集まる多くの中年ライダーたちがそうだったように・・・。
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