8つの花卉
暮れも押し迫った昨年の12月22日、父が死んだ。
肺気腫。
16年間患って、担当医が首を傾げること数回、
これまでは気力と体力で持ちこたえたけれど、
さすがに力つきたようだった。
入稿時期に重なった親不孝者は、
帰省したはいいがトンボ帰りで戻ってきて、
じっくりとお別れする暇もなかった。
昨夏の帰省で、なんとか孫の顔は見せられたが、
それが最後になった。
一昨年、買った家を見に来る予定もあったのだけれど、
それも叶わなかった。
離れて暮らしている以上、
ある程度の覚悟は出来ていたのだけれど、
思った以上に実感がわかない。
母と兄、妹とも、実感がわかないまま、
あれこれと忙しく葬儀に臨んだ。
通夜の日と本葬の当日は、
それまで寒風が吹き荒れたのが嘘のようにベタ凪で、
最後まで晴れ男だったようだ。
焼き場で、最後に我が家の庭の象徴として、
8種類の木の葉や実を棺に入れた。
ヒメシャラの実、
ユスラウメの葉、
キンポウジュの実、
シマトネリコの葉、
イブキジャコウソウの葉、
イロハモミジの葉、
ドウバネムノキの葉、
ハナセンナの葉。
ちょっとセンチメンタルだけれど、
こちらの8人の家族の代わりに、と合掌した。
思い起こせば7年前の冬、やはり危篤状態だった父の病床、
その枕元には赤々としたナンテンの実が飾られてあった。
正月用に、と知人が活けてくれたものだった。
とても植物が好きな父で、
家の改築の際に、私と同じ年の柿の木を伐ってしまったことを、
ずっと残念がっていた。
イチジク、コケモモ、イチゴ、アケビ、ウグイスカグラに木イチゴ……、
今の我が家に果樹を多く植えたのは無意識に、
食いしん坊で植物好きの父に見せたかったのかも知れない。
漸く地震の爪痕も癒えた故郷の町は復興逞しく、
新たな日常を紡ぎつつあった。
こちらに帰ってくると、待っていたかのように、
四季なりのイチゴが北風の中で青い実を付けていた。
見てくれているだろうか?
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